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東京高等裁判所 平成5年(ネ)688号 判決

控訴人 万里商事株式会社

右代表者清算人 中村寛治

控訴人 斎藤清

右両名訴訟代理人弁護士 萩原剛

日向隆

中島晧

田中和義

成瀬眞康

被控訴人 株式会社高根計画

右代表者代表取締役 杉田憲康

右訴訟代理人弁護士 橋場隆志

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の控訴人らに対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

理由

一  請求原因1及び3の(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(本件連帯保証契約の成否)について検討する。

原審における被控訴人代表者本人尋問の結果によって被控訴人(会社)取締役会議事録(昭和五七年五月四日付)の写しであることが認められる≪証拠省略≫には、同取締役会において、控訴人会社(当時の商号株式会社ビッグヒル新社)が訴外銀行(当時の商号株式会社第一相互銀行)から融資を受けるにあたり、被控訴人において五〇〇〇万円の限度でその債務を保証し、その保証期間及び保証条件等詳細は代表取締役に一任することを可決した旨が記載されているところ、被控訴人代表者は原審における本人尋問において、被控訴人においてそのころ右≪証拠省略≫を訴外銀行に差し入れ、これにより訴外銀行との間で本件連帯保証契約を締結した旨被控訴人の右主張に沿う供述をしている。しかしながら、原本の存在及び成立に争いのない≪証拠省略≫(別件の証人小林彰の証人調書写し)、当審証人小林彰の証言、原審における控訴人斎藤本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、(1)訴外銀行において保証契約を締結する場合には、同行所定の様式による書面(保証書)を使用し、他の方式により保証契約を締結することはないこと、(2)右≪証拠省略≫は、訴外銀行が控訴人会社から手形割引の依頼を受けた被控訴人振出の手形について、商取引の実体を伴う信用のある手形かどうかを判断するための資料として提出を受けたものであって、保証契約関係の文書として提出されたものではないこと、(3)そして、右≪証拠省略≫には保証期間及び保証条件等は代表取締役に一任すると記載されているところ、これに基づき被控訴人代表取締役と訴外銀行との間で話合いが行われた事実もなく、訴外銀行において被控訴人に対し被控訴人との保証契約の存在を主張したことは全くなかったこと、(3)控訴人会社においても被控訴人に対し本件連帯保証の委託をした事実はなかったこと、以上の事実が認められるから(原審における被控訴人代表者本人尋問の結果中右認定に反する趣旨の供述部分は信用しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。)、請求原因2に沿う被控訴人代表者本人の前記原審供述は、右認定事実に照らし信用しがたく、他にこれを認めるに足る証拠はない(なお、別件における被控訴人代表者本人の本人調書の写しであることに争いがない≪証拠省略≫中、右取締役会議事録の写しに関する部分の供述の記載は、本件連帯保証契約の成立をいうものかどうかその趣旨が明確ではない上、右に説示した被控訴人代表者本人の原審供述に関する信用性等に照らし、これをもって右の主張事実を証するに足りない。)。

三  請求原因4について検討する。

1  同(一)について検討するに、前記二のとおり本件連帯保証契約成立の事実を認めるに足りない以上、被控訴人の本件約束手形振出が本件連帯保証債務の履行行為に該当することはありえず、したがって、被控訴人の右の主張はその前提を欠き失当である。

2  次に、被控訴人は、融通手形である本件約束手形の振出(及びその割引)により被控訴人が訴外銀行に対し当然に手形上の債務を負担したことをもって、本件弁済により代位の効果が発生することの根拠事実として主張する。しかしながら、前記≪証拠省略≫及び当審証人小林彰の証言、原審における控訴人斎藤本人尋問の結果によれば、訴外銀行は、控訴人会社から本件約束手形が商取引の裏付けのある手形であるとの説明を受け、前記≪証拠省略≫等の裏付資料の提出を受けてこれを信用し、融通手形であることを知らないで手形割引に応じたことが認められるから(右認定を覆すに足る証拠はない。)、そのような事実関係のもとでは右割引手形(本件約束手形)が融通手形であったことを根拠にして、訴外銀行と被控訴人との間に何らかの実質関係が生じたものと解すべき理由は見当たらず、右手形割引の結果被控訴人と訴外銀行との間に発生した法律関係は、手形割引人(所持人)と当該手形の振出人との間の手形上の債権債務関係を超えるものではなかったことが明らかである。してみると、訴外銀行に対する本件約束手形の主債務者はあくまで被控訴人であり、本件弁済は被控訴人が主債務者として行った弁済であって第三者の弁済には当たらないから、訴外銀行の原債権はこれによって確定的に消滅したものというべきであり、本件弁済により代位の効果が発生するに由なく、よって被控訴人の請求原因4の(二)も理由がない。

四  以上によると、被控訴人の控訴人らに対する本訴各請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、これと結論を異にする原判決を取消し、被控訴人の本訴各請求をいずれも棄却する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 田中康久 高橋勝男)

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